Delicious Cinema Vol.2 「僕と、宮崎駿と、奇跡のシベリア」

先日連載がスタートした「Delicious Cinema – おいしい映画」第二弾。
僕たちは映画から多くの事を学び、様々な感情、体験が生まれ。人生の支えとなっている。

第二回となる今回は、福岡今泉の美容室「TALO」のowner / hair stylist
自他共に認める大のジブリ好き、32氏がジブリへの愛と憧れのアレと奇跡の出来事を語ります。

「Delicious Cinema -002-」Guest columnist 32

32 (TALO owner / hair stylist)
https://www.instagram.com/mitsunobu32/

『トトロ』で物心がつき、『魔女の宅急便』で初恋を覚え、 『紅の豚 』に男の美学を学び、 『風立ちぬ』に仕事との向き合い方を教えてもらった、これまでの人生。ひょんなことがきっかけで、数年前に宮崎駿先生とモーニングをご一緒させていただいた。(これは本当に奇跡)

この、空想だと思われていたラピュタに、実際に辿り着いたかのような幸運な体験が、僕の中の、『1番好きな映画監督』を不動の地位まで押し上げたと思う。(サツキとメイの言葉を借りるのであれば、夢だけど夢じゃなかった)

宮崎駿作品ひとつひとつについて、詳しく述べたい気持ちを抑え、【おいしい映画】というテーマに基づき、実際に駿先生とご一緒した奇跡の体験と絡めつつ、話をすすめていきたいと思う。 (完全なる偏愛自己満足に最後までお付き合いいただけると幸せです)

僕と、宮崎駿と、奇跡のシベリア

宮崎駿先生の映画に出てくる食べ物は、時代背景や設定、モデルになった国に関わらず、なぜあんなに、懐かしさと目新しさが同居するのだろう。自分でも作れそうな身近さがあるのに、実際に作ってみると、全く違うものができあがってしまった経験は皆さんきっとあると思う。

となりのトトロ “サツキとメイが美味しそうにかじりつくキュウリ”

幼少期に真似して食べたら味がしなくて少しキュウリが嫌いになった(笑)

となりのトトロ “サツキが手際良く作った何気ないお弁当”

実際にお弁当あけて、ご飯とおかずの割合がこれだったら、そっと蓋を閉じると思う

天空の城ラピュタ “パズーとシータが洞窟で食べる目玉焼きパン”

目玉焼きを食パンに乗せただけなのに、なんでこんなに魅力的なんだろう

魔女の宅急便 “キキが依頼主である老婦人と一緒に作ったニシンのパイ”

「このパイ嫌いなのよね」と言ったあのお孫さんの顔に、このパイを投げたくなったことはみなさんあるのでは

魔女の宅急便 “おソノさんが作ってくれるインスタントコーヒー”

このシーンに憧れて、目をつぶってインスタントコーヒーを作り、粉を撒き散らしたコーヒーより苦い経験をしたことがある

紅の豚 “ポルコがピッコロ社のみんなと食べるトマトスパゲッティ”

ポルコのテーブルマナーにはいつでも憧れる

ハウルの動く城 “ハウルが作るベーコンエッグ”

カルシファーに食べさせる卵の殻さえ美味しそう

崖の上のポニョ “ポニョと宗介が目を光らせたハム入りラーメン”

宮崎駿先生はホウレンソウを乗せたラーメンが好みだそうです

ジブリ映画に出てくる食べ物をあげたらキリがないので割愛。(耳をすませばの鍋焼きうどん、サンがアシタカに食べさせる干し肉、銭婆のケーキなどなど。。。)、そろそろタイトルにもしている『奇跡のシベリア』に移ろうと思う。

『シベリア』は2013年に公開された『風立ちぬ』の作中にでてくるが、ピンとくる人はあまりいないのではないだろうか。

ファンタジー要素を排除し、宮崎駿映画でもかなり賛否両論があったこの作品について少し僕なりに書かせてほしい。

主人公の堀越二郎は、第二次世界大戦中に作られた戦闘機=零戦の設計者である実在した 堀越二郎モデルとした人物である。 (物語は堀辰雄の小説【風立ちぬ】と【菜穂子】から着想を得ている)

飛行機は人を殺す道具にもなる『呪われた夢』 と言われながらも、『美しい飛行機を作りたい』という純粋な夢を追いかける矛盾との葛藤。

二郎は夢中で美しい夢を追いかけていたはずが、行き詰まってしまい、打ちひしがれていた時、後の妻となる菜穂子と再会する。

菜穂子「ほらご覧になって」
(丘の向こうの虹を指差す
)

二郎「虹なんかすっかり忘れてました…」

菜穂子「生きているって素敵ですね」
(この時すでに菜穂子は結核を患っている
)

この一言が、二郎の心のモヤにも虹をかけ、もう一度飛行機作りに向かわせたのではないだろうか。

最愛の妻である菜穂子が結核を患い、残された時間がないことを覚悟した2人。

愛情ではなくエゴイズムではないかと問われた時に

「私達には時間がありません。覚悟しています」

と答えたり

病院に戻すことは無理なのかと諭された時には

「僕らはいま、一日一日をとても大切に生きているんだよ」

と答える二郎。

“美しい飛行機を作りたい”
“戦争の道具になる呪われた夢”
“命の終わりが見えてる最愛の人”

この矛盾と葛藤の嵐の中でも、まっすぐに飛行機作りに向き合う二郎。
それを健気に支える菜穂子。残された時間を大切に生きる2人

零戦が完成し、最愛の妻を亡くし、最終的には国を滅ぼした二郎。

『空に憧れて 空をかけていく あの子の命は飛行機曇』

エンドロールで流れるユーミンのファーストアルバムのこの歌に、僕は何度やられたんだろう。

向かう先が地獄だとわかっていても、風が立っているかぎり、生きようと試みなければならない。。。

もはや何の記事を書いているかわからなくなってきました笑

『風立ちぬ』を映画館で初めて観た時、見たことも聞いたこともない食べ物が出てくるシーンどうしてもひっかかり、喉に鯖の小骨が刺さったままのような違和感があったことを今でも覚えてる。

夜遅く仕事帰りの二郎が、顔見知りの小さなパンと駄菓子を商う店で「シベリアを二つおくれ」と注文すると新聞紙に包まれた“それ”が出てきた。

そしてその店の近くの街灯の下で、夜も遅くに親の帰りを待つ幼い姉弟を見つけた二郎は「ひもじくないかい?そこの店で買ったシベリアをお食べ」とその姉弟に差し出す。(二郎は幼少期から分け隔てなく、困ってる人に対して、当たり前のように親切にしてきた)

ここで僕の耳にも目にも舌にも全く馴染みのない“シベリア”と初めて対峙する。

この後、その姉弟達は二郎のこの行為を無視し、走り去っていく。そのまま二郎がそこに立ち尽くすシーンが描かれるが、その意味を考えるスペースがないほど、僕の頭はこの謎の“シベリア”でいっぱいになった。

映画を観終わると圧倒的な感動で“それ”を忘れてしまっていたが、ふとした時に思い出し、調べてみた。

シベリア
【羊羹(ようかん)または小豆の餡子(あんこ)をカステラに挟み込んだ日本の菓子である。昭和初期には「子供達が食べたいお菓子No.1」であったと伝えられているが、発祥地から考案者、名称由来、食品分類に至るまで未だ正式な解明がなされていない。】

説明を見ても、味も食感も匂いさえも想像ができない。 『子供達が食べたいお菓子NO.1』であるお菓子を目の前にして、受け取らずに走り去った姉弟のあの行動も、“シベリア” に対する興味をより駆り立てられた。

それからパン屋などに行った時も何気なく探してみるが、1度も出会うことなく“その日”はやって来ました。

『風立ちぬ』を初めて映画館で見て1年くらい経った頃(映画館で5回観ました)、冒頭にも書きましたが、ひょんなことから、あの、宮崎駿先生とご一緒させていただく機会がありました。

東京の外れの方にある、とある駅の近くのとあるお店で(緊張と興奮で覚えてません)、真夏の朝の8時からモーニングをしました。

普通のチノパンに普通のチェックシャツをインして、リアルダッドシューズをはいた、実写版4Dの宮崎駿先生が目の前にいる。

僕は今、王蟲の群れの中にいるのか、バルスを唱えようとしてるのか、ネコバスの中にいるのか、ホウキで空を飛んでいるのか、豚になってしまったのか、シシ神に首を返そうとしているのか。。。

目の前の出来事が信じられな過ぎて打ちひしがれていました。

そんな僕にも優しく話してくれて、 「君たちはクロアチアに行ったことがあるかい?」と、急に胸ポケットからペンを取り出し、テーブルにあった紙ナプキンに絵を描き始めたり。。。

そして9時にはお店を出るらしく

「君たち、早くコーヒーを飲みなさい。僕は時計の針が9の文字を過ぎたら行かないといけないんだ。」

まるでジブリ映画のキャラクターが口にするような言葉に僕はいちいち感動した。

店を出て駿先生の口から出てきた、とうに忘れていた、耳馴染みも口馴染みもない言葉に再会した。

君たちシベリアは好きかい?」

僕の体に突風が吹き荒れた。

食べたこともなければ、実物を見たこともない僕は、駿先生の目を見て、その日1番大きな声で

「はい!」

と答えました。笑

駿先生が昔から通ってる駅前のパン屋に連れられ、そこにあるシベリアを全部買って(7個)、全部くれました。笑

なんと、このお店のシベリアこそが『風立ちぬ』の作中に出てくるシベリアのモデルになったんだと教えてくれた。

映画で初めて見たシベリア、どこを探しても出会うことがなかったシベリア、なのに目の前にあるこのシベリアは二郎があの姉弟にあげようとした“それ”の大元となったシベリア。

感動と衝撃で、僕はあの姉弟のようにその場から走り去りたい衝動を抑え7個のうちの1つをその場で食べた。

正直、この時の味なんて覚えてない。誰もが映画に出てくる 食べ物 に一度は憧れると思う。

画面の中で見たあの食べ物が、こうして実際に画面を飛び出し、あの主人公と同じように食べることができた。しかもそのモデルになったものを食べれる幸せな体験をすることができた。

そして駿先生は

「じゃあ、それでは」

と明日も会うかのように別れをつげ、颯爽と道の向こうに風のように消えていきました

2020年〜2021年公開予定の宮崎駿監督最新作(おそらく遺作になるかもしれない)

『君たちはどう生きるか』

この世界規模のコロナショックで価値観の変わり始めた世の中に、どんなメッセージを叩きつけるのか。コロナの先の最大の楽しみです。

いつか、ハウルのベーコンエッグ、パズーの目玉焼きパン、カストルプが食べてたクレソンのサラダ、ピッコロ社のトマトスパゲティが盛られた“ジブリプレート”を食べてみたい。

食後に、おソノさんのコーヒーと、“あの”シベリアを食べれる日を夢見て。。。

宮崎駿とシベリアに敬意を込めて

おわり

park